インシデント管理とは?目的からプロセス、ITIL準拠のフローまで徹底解説

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システムの停止やパフォーマンス低下といったITインシデントへの対応に、お悩みではありませんか?インシデント管理は、サービスを迅速に復旧させビジネスへの影響を最小化するだけでなく、顧客満足度を維持・向上させるために不可欠な活動です。本記事では、インシデント管理の基本的な定義や目的、混同されがちな問題管理との違いを明確にします。さらに、ITILに準拠した検知からクローズまでの一連のプロセス、成功に導くためのKPI設定やナレッジ活用のポイント、そして業務を効率化するおすすめのツールまで、実践的な知識を体系的に解説します。この記事を読めば、インシデント管理の全体像を深く理解し、自社での導入・改善を具体的に進められるようになります。

目次

インシデント管理の基本 インシデントの定義を理解する

インシデント管理を正しく理解し、組織に導入するためには、まず「インシデント」という言葉の定義を正確に把握することが不可欠です。インシデントは、単なる「障害」や「トラブル」とは異なる、より広い概念を含んでいます。この章では、インシデントの基本的な定義から、混同されがちな「問題管理」や「障害管理」との違いまでを分かりやすく解説します。

そもそもインシデントとは何か

ITサービスマネジメントの世界的なベストプラクティスであるITIL(Information Technology Infrastructure Library)において、インシデントは「サービスの標準的な運用からの逸脱であり、サービス品質の低下を引き起こす、あるいは引き起こす可能性のある、計画外のあらゆる事象」と定義されています。

重要なのは、「実際にサービスが停止した」事象だけを指すのではないという点です。例えば、以下のようなケースはすべてインシデントに該当します。

  • Webサイトへのアクセスが完全にできなくなった
  • アプリケーションの動作が通常よりも著しく遅い
  • メールの送受信に時間がかかる、または失敗することがある
  • 特定の機能を使おうとするとエラーメッセージが表示される
  • 社内ネットワークプリンターから印刷ができない

このように、サービスが完全に停止していなくても、パフォーマンスの低下や一部機能の不具合など、ユーザーが期待するサービスレベルを提供できていない状態はすべてインシデントとして扱われます。インシデント管理の最初のステップは、これらの事象を正確にインシデントとして認識することから始まります。

インシデント管理と問題管理や障害管理との違い

インシデント管理について学ぶ際、多くの人が「問題管理」や「障害管理」との違いに混乱します。これらは密接に関連していますが、その目的とアプローチは明確に異なります。それぞれの違いを理解することが、効果的な運用体制を構築する上で極めて重要です。

以下の表で、3つの管理プロセスの違いを整理してみましょう。

項目インシデント管理問題管理障害管理
目的迅速なサービス復旧と業務影響の最小化インシデントの根本原因の特定と恒久的な再発防止ITインフラ(構成要素)の物理的・論理的な修復
時間軸即時対応・応急処置(リアクティブ)中長期的・根本解決(プロアクティブ)即時対応・復旧作業
主な活動影響範囲の特定、回避策の提供、エスカレーション、ユーザーへの報告原因調査、傾向分析、既知のエラーDBの更新、変更要求の発行故障部品の交換、システムの再起動、パッチの適用、データの復元
ゴールユーザーがサービスを再び利用できる状態にする将来のインシデント発生を防ぐ故障したコンポーネントを正常な状態に戻す

簡単に言えば、インシデント管理の最優先事項は「原因究明よりも、まずサービスを元に戻すこと」です。例えば、システムが停止した場合、暫定的な回避策(ワークアラウンド)を提供してでも、ユーザーの業務を止めないことを目指します。

一方、問題管理は、そのインシデントがなぜ発生したのかという「根本原因」を突き止め、恒久的な対策を講じることで同様のインシデントの再発を防ぐことを目的とします。インシデントが解決した後に、じっくりと調査・分析を行う活動です。

そして障害管理は、サーバーの故障やネットワーク機器の不具合といった、ITインフラを構成する物理的・論理的な「故障(Fault)」そのものに対応し、修復するプロセスを指します。多くの場合、障害がインシデントを引き起こす原因となります。これらの違いを明確に区別し、連携させることが、安定したITサービス運用の鍵となるのです。

なぜインシデント管理は重要なのか その目的と導入メリット

インシデント管理の重要性:目的とメリット 3つのゴール (目的) 1 迅速なサービス復旧 ダウンタイムを短縮し、 ビジネスへの影響を最小化する 2 品質維持とSLA遵守 合意したサービスレベルを守り、 顧客との信頼関係を維持する 3 将来の発生抑制 データを蓄積・分析し、 同様のトラブル再発を防ぐ 実現 導入のメリット ビジネスインパクトの最小化 顧客満足度と信頼性の向上 社内業務の生産性向上 対応品質の標準化・属人化解消 ITコストの最適化 インシデント管理はビジネスの継続性と成長を支える基盤

インシデント管理は、単に発生したITトラブルに対処するだけの受け身の活動ではありません。これは、ビジネスの継続性を確保し、顧客からの信頼を維持・向上させるための、極めて戦略的な取り組みです。予期せぬサービスの停止や品質低下は、売上の機会損失だけでなく、企業のブランドイメージや顧客満足度に深刻なダメージを与えかねません。適切なインシデント管理プロセスを構築・運用することで、これらのリスクを最小限に抑え、安定したサービス提供を実現することが可能になります。

インシデント管理が目指す3つのゴール

インシデント管理は、以下の3つの主要なゴールを達成することを目的としています。これらは互いに関連し合っており、組織のITサービスマネジメント全体の成熟度を高める上で不可欠です。

1. 可能な限り迅速なサービス復旧
インシデント管理の最も優先されるべき目的は、インシデント発生から正常なサービス状態への復旧時間を最短にすることです。システムのダウンタイムやサービスの品質低下がビジネスに与える影響(ビジネスインパクト)を最小限に食い止めることが求められます。

2. サービス品質の維持とSLAの遵守
顧客やユーザーと合意したサービスレベルアグリーメント(SLA)を遵守することは、信頼関係の基盤です。インシデント管理は、SLAで定められた目標復旧時間内に問題を解決し、安定したサービス品質を維持することで、顧客満足度を高く保つ役割を担います。

3. 将来のインシデント発生の抑制への貢献
インシデントの対応記録は、組織にとって貴重なナレッジとなります。これらのデータを分析し、発生頻度の高いインシデントや影響の大きいインシデントの根本原因を特定する「問題管理」プロセスへと繋げることで、同様のインシデントの再発を防止し、将来のリスクを低減させることができます。

企業がインシデント管理を導入する具体的なメリット

インシデント管理プロセスを正式に導入し、徹底することで、企業は多岐にわたる具体的なメリットを享受できます。その効果はIT部門内にとどまらず、全社的な生産性向上やビジネス成長にも貢献します。

メリット具体的な内容
ビジネスインパクトの最小化迅速かつ的確な対応により、サービスの停止時間を短縮します。これにより、売上減少や機会損失といった直接的なビジネスへの悪影響を最小限に抑えることができます。
顧客満足度と信頼性の向上インシデント発生時に迅速な情報提供と復旧対応を行うことで、ユーザーの不満や不安を軽減します。誠実な対応は顧客ロイヤルティの向上に直結し、企業の信頼性を高めます。
社内業務の生産性向上社内システムで発生したインシデントが迅速に解決されることで、従業員が業務を中断される時間が減り、本来のコア業務に集中できる環境が整います。結果として、組織全体の生産性が向上します。
対応品質の標準化と属人化の解消明確なプロセスとルールに基づいて対応することで、担当者による対応のバラつきを防ぎます。これにより、対応業務の属人化を防ぎ、組織全体として安定した品質での対応が可能となり、ナレッジも蓄積されやすくなります。
ITコストの最適化インシデント対応のプロセスが効率化されることで、対応にかかる人件費や工数を削減できます。また、再発防止策を講じることで、将来的に発生するであろうインシデント対応コストそのものを抑制することにも繋がります。

インシデント管理の基本的なプロセスとフロー

インシデント管理の基本プロセス (ITIL準拠) Step 1: インシデントの検知と記録 電話・メール・アラート チケット発行・一元管理 (受付番号、日時、概要など) Step 2: 分類と優先度付け 影響度 × 緊急度 = 優先度決定 ・カテゴリ分類 ・担当割当 Step 3: 初期調査と診断 一次対応(サービスデスク) ナレッジ検索・ログ確認・切り分け 解決? → Step 5へ 解決困難な場合 Step 4: エスカレーションと解決 専門チーム(二次・三次)へ引き継ぎ 詳細調査・根本原因特定・回避策提示 Step 5: 復旧とクローズ サービス正常化・ユーザー確認 ★重要:ナレッジの記録・蓄積

インシデント管理を効果的に機能させるためには、標準化されたプロセスとフローを確立することが不可欠です。場当たり的な対応は、かえって混乱を招き、解決を遅らせる原因となります。ここでは、多くの企業で採用されている、ITILにも準拠した基本的な5つのステップからなるプロセスとフローを具体的に解説します。

ステップ1 インシデントの検知と記録

インシデント管理の最初のステップは、インシデントの発生を「検知」し、その内容を正確に「記録」することです。インシデントは、エンドユーザーからの電話やメール、チャットによる報告、あるいは監視ツールが発するアラートなど、さまざまなチャネルを通じて検知されます。重要なのは、どのような経路で発生したインシデントであっても、すべてを一元的に管理する体制を整えることです。検知したインシデントは、インシデント管理ツールなどに以下の情報を含めて速やかに記録します。

  • 受付番号(チケット番号)
  • 発生日時・報告日時
  • 報告者の氏名・部署・連絡先
  • インシデントの概要(どのような事象が発生しているか)
  • 発生しているシステムやサービスの名称
  • 対応の優先度(暫定でも可)

この記録が、後続のすべてのプロセスの基礎となります。

ステップ2 分類と優先度付け

記録されたインシデントは、次に「分類」と「優先度付け」を行います。分類とは、インシデントの内容に応じて「ハードウェア障害」「ソフトウェアの不具合」「ネットワーク接続の問題」「操作に関する問い合わせ」といったカテゴリに分ける作業です。これにより、どの専門チームが対応すべきかが明確になり、迅速な担当者の割り当てが可能になります。

優先度付けは、インシデントがビジネスに与える「影響度」と、対応を要する「緊急度」の2つの軸から決定します。限られたリソースを最適に配分し、ビジネスインパクトの大きい重大なインシデントから対応するために極めて重要です。一般的には、以下のマトリクス表を用いて優先度を決定します。

緊急度:高緊急度:中緊急度:低
影響度:高最優先
影響度:中
影響度:低

例えば、「基幹システムが全社的に停止している」場合は影響度・緊急度ともに「高」であり、優先度は「最優先」となります。

ステップ3 初期調査と診断

優先度に基づいて、一次対応担当者(多くはサービスデスク)がインシデントの「初期調査」と「診断」に着手します。ここでは、ユーザーへのヒアリングを通じて状況をより詳しく把握したり、過去の類似インシデントが記録されたナレッジベースを検索したり、ログを確認したりして、原因の切り分けを行います。この段階で既知の問題や簡単な設定ミスなどを解決できれば、対応全体の効率が大幅に向上します。もし解決策が判明すれば、ユーザーに提示し、問題が解消されたかを確認します。

ステップ4 エスカレーションと解決

初期調査で原因が特定できない、あるいは解決が困難な場合、インシデントは専門的な知識を持つ二次・三次対応チームへ「エスカレーション(引き継ぎ)」されます。エスカレーションを行う際は、それまでの調査内容やユーザーとのやり取りを正確に伝えることが、スムーズな引き継ぎの鍵となります。エスカレーションを受けた専門チームは、より詳細な調査を行い、根本原因を特定して「解決」を目指します。恒久的な解決策の適用が難しい場合は、サービスを暫定的に復旧させるための「回避策(ワークアラウンド)」を提示することもあります。

ステップ5 復旧とクローズ

解決策または回避策が適用され、サービスが正常な状態に「復旧」したことを確認します。インシデントを報告したユーザーに連絡を取り、問題が解決したことを確認してもらうことも重要です。ユーザーの同意が得られたら、インシデント対応は完了となり、チケットを「クローズ」します。ただし、ただ閉じるだけではありません。対応プロセス全体を振り返り、原因、解決策、対応履歴などをナレッジとして記録・整理することが、このステップの最も重要な役割です。この蓄積されたナレッジが、将来発生するであろう同様のインシデントへの迅速な対応を可能にし、組織全体のインシデント管理能力を強化する財産となります。

ITILに準拠したインシデント管理とは

インシデント管理のプロセスを構築する上で、世界中の企業が参考にしているのが「ITIL(アイティル)」です。ITILはITサービスマネジメントにおける成功事例を体系的にまとめたものであり、このフレームワークに準拠することで、属人化を防ぎ、より効果的で質の高いインシデント管理を実現できます。この章では、ITILの概要と、その中でインシデント管理がどのように位置づけられているかを解説します。

ITサービスマネジメントの国際的な基準ITIL

ITIL(Information Technology Infrastructure Library)とは、ITサービスマネジメント(ITSM)におけるベストプラクティス(成功事例)を体系的にまとめた、世界的に最も広く活用されているフレームワークです。1980年代にイギリス政府によって策定され、改訂を重ねながら、ITサービスを安定的かつ効率的に提供するための「事実上の国際標準」として普及してきました。

ITILは、ITを単なる技術としてではなく、ビジネスに価値を提供する「サービス」として捉えます。そして、そのサービスの品質を維持・向上させるための組織的な仕組みやプロセスを定義しています。ITILを導入することで、企業はITサービスの品質を可視化し、継続的な改善サイクルを回しながら、ビジネス目標の達成に貢献するIT運用を目指すことが可能になります。

ITILにおけるインシデント管理の位置づけと役割

ITILのフレームワークは、「サービスストラテジ」「サービスデザイン」「サービストランジション」「サービスオペレーション」「継続的サービス改善」という5つのライフサイクルで構成されています。この中で、インシデント管理は日々のITサービス運用を担う「サービスオペレーション」のフェーズに含まれる、極めて重要なプロセスの一つです。

ITILでは、インシデントを「計画外のITサービスの中断、またはITサービスの品質低下」と定義しています。そして、インシデント管理の最大の目的を「可能な限り迅速に通常のサービス運用を回復させ、ビジネスへの影響を最小限に抑えること」と定めています。根本原因の追究(問題管理)よりも、まずはサービスを復旧させるための暫定的な対応(ワークアラウンド)を優先する点が特徴です。

ITILに準拠したインシデント管理では、ビジネスへの影響度と緊急度から客観的に優先順位を決定します。これにより、対応すべきインシデントの順番で迷うことがなくなり、リソースを最も重要な課題に集中させることができます。

緊急度:高緊急度:中緊急度:低
影響度:高優先度:1 (最高)優先度:2 (高)優先度:3 (中)
影響度:中優先度:2 (高)優先度:3 (中)優先度:4 (低)
影響度:低優先度:3 (中)優先度:4 (低)優先度:5 (最低)

また、一次担当者で解決できない場合に専門チームへ引き継ぐ「機能的エスカレーション」や、対応が遅延した場合などに上位の管理者へ報告する「階層的エスカレーション」のルールも明確に定義します。このように、ITILの考え方を取り入れることで、場当たり的ではない、標準化・体系化されたインシデント管理プロセスを構築し、組織全体の対応能力を向上させることが可能になるのです。

インシデント管理を成功に導くための実践ポイント

インシデント管理を成功に導く3つの実践ポイント ルールの策定・共有 明確なインシデント定義 受付チャネルの統一 エスカレーション基準 役割と責任(RACI) 属人化を防ぎ品質担保 KPIによる改善 MTTR / 初回解決率 SLA遵守率の測定 PDCAサイクル ボトルネックの特定 客観的評価と継続改善 ナレッジの蓄積 解決策の資産化 類似案件の迅速対応 教育コストの削減 検索文化の定着 組織全体の効率向上

インシデント管理のプロセスを定義し、ツールを導入しただけでは、その効果を最大限に引き出すことはできません。重要なのは、定義したプロセスを組織に定着させ、継続的に改善していくことです。ここでは、インシデント管理を形骸化させず、成功に導くための3つの実践的なポイントを解説します。

明確な運用ルールの策定と共有

インシデント管理の品質は、担当者のスキルや経験に依存しがちです。このような属人化を防ぎ、誰が対応しても一定の品質を担保するためには、明確で具体的な運用ルールを策定し、関係者全員で共有することが不可欠です。

ルールを策定する際は、以下の項目を具体的に定義しましょう。

  • インシデントの定義と受付チャネル: 何をインシデントとして扱うのか、その報告はどのチャネル(電話、メール、チャット、専用フォームなど)で受け付けるのかを明確にします。
  • 記録フォーマットの標準化: インシデントを記録する際の必須項目(発生日時、影響範囲、報告者、事象の詳細など)を統一し、情報の過不足を防ぎます。
  • 優先度付けの基準: 「緊急度」と「影響度」の2軸から優先度を判断するためのマトリクスなど、客観的な基準を設けます。これにより、対応の順番をめぐる混乱を避けられます。
  • エスカレーションルール: 一次担当者で解決できない場合に、どのタイミングで、誰に、どのような情報と共にエスカレーションするのかを定めます。時間基準(例:30分以内に解決しない場合)や技術的基準を設けるのが一般的です。
  • 役割と責任の明確化: 各プロセスにおける担当者、責任者、報告先などを明確に定義します(RACIチャートなどを用いると効果的です)。

これらのルールはドキュメント化し、社内Wikiやナレッジベースなど、誰もがいつでも参照できる場所に保管することが重要です。また、ルールは一度作って終わりではなく、運用状況に合わせて定期的に見直し、改善を重ねていく必要があります。

KPIを設定し継続的に改善する

インシデント管理の運用状況を客観的に評価し、改善点を見つけ出すためには、重要業績評価指標(KPI)の設定が欠かせません。KPIを定めることで、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を効果的に回すことができます。

インシデント管理でよく用いられる代表的なKPIには、以下のようなものがあります。

KPI項目内容測定する目的
平均解決時間(MTTR)インシデントの発生からクローズまでの平均時間対応プロセスの効率性や迅速性を評価する
初回解決率(FCR)エスカレーションなしに最初の担当者で解決できたインシデントの割合一次担当者のスキルレベルやナレッジ活用の度合いを測る
SLA遵守率サービスレベル合意(SLA)で定められた目標時間内に対応できたインシデントの割合サービス品質の維持レベルを評価する
顧客満足度(CSAT)インシデント対応後のユーザーアンケートなどで測定される満足度ユーザー視点での対応品質を評価する
オープン中のインシデント数未解決のまま残っているインシデントの件数チームの対応能力やボトルネックを把握する

これらのKPIを定期的に測定・分析し、目標値との乖離や傾向を把握します。例えば、MTTRが悪化している場合は、特定のプロセスにボトルネックがないか、担当者のスキルが不足していないかなどを深掘りし、具体的な改善策を立案・実行することが、サービス品質の継続的な向上につながります。

ナレッジを蓄積し組織の財産にする

個々のインシデント対応で得られた知見や解決策は、その場限りで終わらせてはなりません。対応履歴や解決策を「ナレッジ」として蓄積し、組織全体の財産として活用する仕組みを構築することが、インシデント管理の効率を飛躍的に高めます。

ナレッジを蓄積することで、以下のようなメリットが生まれます。

  • 対応の迅速化: 過去に類似のインシデントがあれば、その解決策を参照することで迅速に対応できます。
  • 属人化の防止: 特定の担当者しか知らないノウハウを形式知化し、チーム全体で共有できます。
  • 教育コストの削減: 新しいメンバーが過去の事例を学ぶことで、早期に戦力化できます。
  • 問題管理への連携: 頻発するインシデントの根本原因を特定し、恒久的な対策を講じるための情報源となります。

ナレッジを効果的に活用するためには、インシデントをクローズする際に、解決策や原因をナレッジベースに登録するプロセスを徹底することが重要です。また、登録されたナレッジが探しやすくなるよう、適切なカテゴリ分けやタグ付けのルールを定め、定期的に内容を更新していく運用を心がけましょう。対応を開始する前にまずナレッジベースを検索する、という行動をチームの文化として根付かせることが成功の鍵です。

効率的なインシデント管理を実現するおすすめツール

インシデント管理のプロセスを理解しても、それをExcelやメールといった手作業で運用するには限界があります。対応の属人化や情報共有の遅れといった課題を解決し、インシデント管理を成功させるためには、専用ツールの活用が不可欠です。この章では、ツール導入のメリットと、具体的なツール選定のポイントについて解説します。

インシデント管理にツールを導入すべき理由

インシデント管理をExcelやスプレッドシート、メールなどで行っている企業は少なくありません。しかし、事業規模の拡大やサービスの複雑化に伴い、手動での管理はさまざまな問題を引き起こします。なぜ専用ツールの導入が推奨されるのか、手動管理の課題とツールによる解決策を比較してみましょう。

手動管理(Excel・メールなど)の主な課題インシデント管理ツールによる解決策
報告形式がバラバラで、必要な情報が不足しがち。担当者しか状況を把握できない「属人化」が進む。入力フォームの標準化により、誰が報告しても均質な情報を収集可能。対応状況はリアルタイムで可視化され、関係者全員が把握できる。
対応履歴がメールやチャットに散在し、過去の類似インシデントの参照が困難。ナレッジが蓄積されない。インシデントと対応履歴を一元管理し、強力な検索機能で過去の事例を即座に参照可能。対応ノウハウがナレッジベースとして蓄積され、組織全体の財産となる。
優先度付けや担当者の割り当て、エスカレーションを手動で行うため、対応の遅延や漏れが発生しやすい。事前に設定したルールに基づき、優先度付けや担当者の割り当て、SLAに応じたエスカレーションを自動化。対応の迅速化と標準化を実現する。
対応件数や解決時間などのデータを集計・分析するのに多大な工数がかかり、KPI測定や改善活動が進まない。ダッシュボード機能でKPIを自動で集計・グラフ化。サービスレベルの定点観測やボトルネックの特定が容易になり、継続的な改善活動(CSI)を促進する。

このように、インシデント管理ツールは単なる記録ツールではありません。プロセスの標準化、自動化、可視化を通じて、インシデント対応の迅速化とサービス品質の向上に直接的に貢献する、ITサービスマネジメント(ITSM)の中核をなすシステムなのです。

ITSMツール「SHERPA SUITE」で始めるインシデント管理

インシデント管理を含むITサービスマネジメント全般を支援するツールは「ITSMツール」と呼ばれます。海外製ではServiceNowやJira Service Managementなどが有名ですが、日本国内のビジネス環境やサポート体制を重視するなら、国産ツールの導入も有力な選択肢です。その代表例が、ITILに準拠した国産ITSMツール「SHERPA SUITE」です。

「SHERPA SUITE」は、インシデント管理はもちろん、問題管理、変更管理、構成管理(CMDB)といったITILの主要なプロセスを網羅的にサポートしています。このツールを活用することで、インシデント管理の各プロセスを以下のように効率化できます。

  • 検知と記録: メールからのインシデント自動起票や、利用者向けのポータルサイト設置により、報告のハードルを下げ、迅速な検知を実現します。
  • 分類と優先度付け: 設定したカテゴリや、ビジネスへの影響度・緊急度に基づき、システムが自動で優先順位を判断。担当チームへの割り振りも自動化できます。
  • 調査と解決: 過去の類似インシデントや、関連するナレッジ、構成情報(CI)がインシデント画面に表示され、原因調査と解決策の特定を強力に支援します。
  • エスカレーションとクローズ: SLA(サービスレベル合意)の目標時間を超えそうな場合に、担当者やマネージャーへ自動でアラートを通知。対応遅延を防ぎます。解決後のクローズ処理や利用者への通知も、テンプレートを用いて効率的に行えます。

「SHERPA SUITE」のような統合型ITSMツールを導入する最大のメリットは、インシデント管理を起点として、恒久的な対策を検討する「問題管理」や、ITインフラの変更を管理する「変更管理」へとシームレスに連携できる点にあります。これにより、場当たり的な対応から脱却し、ITサービス全体の品質を継続的に向上させるという、本来のITサービスマネジメントの目的を達成しやすくなるのです。

まとめ

本記事では、インシデント管理の定義から、その重要性、具体的なプロセス、そして成功に導くためのポイントまでを網羅的に解説しました。インシデント管理とは、システムやサービスに発生した予期せぬ中断から迅速に復旧し、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための極めて重要な活動です。その目的は、安定したサービス提供を通じて顧客満足度と信頼を維持することにあります。

効果的なインシデント管理を実現するためには、「検知と記録」から「復旧とクローズ」までの一貫したプロセスを確立することが不可欠です。ITILなどのフレームワークを参考に、自社に合った明確な運用ルールを定め、KPIによる継続的な改善とナレッジの蓄積を行うことが、属人化を防ぎ組織全体の対応力を高める鍵となります。

インシデントはいつ発生するか予測できません。だからこそ、平時からインシデント管理体制を整備し、必要に応じてITSMツールなどを活用してプロセスの効率化を図ることが、企業の競争力を支える基盤となります。この記事を参考に、ぜひ自社のインシデント管理体制の見直しと強化に取り組んでみてください。

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詳細情報

〒108-0073東京都港区三田1-2-22 東洋ビル

URL:https://www.sherpasuite.net/

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