知らないとマズい!新リース会計基準のポイントと仕訳例を公認会計士が解説

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「新リース会計基準」と聞いても、いつから適用されるのか、実務で何を準備すれば良いのか分からず、不安を感じている経理担当者の方も多いのではないでしょうか。結論から言うと、新リース会計基準の最大の変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースも含め、原則すべてのリースが資産・負債として計上される「オンバランス化」です。これにより、企業の財務諸表は大きな影響を受けることになります。本記事では、公認会計士が新リース会計基準の概要や適用時期、従来の会計処理との違いといった基本から、設例を用いた具体的な仕訳例、中小企業向けの特例、そして実務担当者が今すぐ始めるべき準備までを網羅的に解説します。この記事を最後まで読めば、新基準へのスムーズな移行に必要な知識が身につき、実務上の不安を解消できます。

目次

新リース会計基準とは そもそも何が変わるのか

2026年度から本格的に適用が開始される見込みの「新リース会計基準」。経理・財務担当者であれば、すでに対応を検討し始めている方も多いのではないでしょうか。この新しい基準の最も大きな変更点は、これまで費用処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産・負債として貸借対照表(B/S)に計上する「オンバランス化」が義務付けられることです。

これにより、企業の財政状態の透明性が高まり、投資家がより実態に即した財務分析を行えるようになります。本章では、この大きな変革の背景や目的、適用時期、そして従来との違いについて、基本から分かりやすく解説します。

新リース会計基準が導入された背景と目的

なぜ今、リース会計基準が大きく変わるのでしょうか。その背景には、主に2つの大きな理由があります。

一つ目は、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)です。すでに国際財務報告基準(IFRS)では「IFRS第16号」、米国会計基準では「Topic 842」として、リースを原則オンバランス化する会計処理が導入されています。グローバルに事業を展開する企業にとって、各国の会計基準の違いは大きな負担となるため、日本基準を国際基準に合わせることで、国内外の企業業績の比較可能性を高める狙いがあります。

二つ目は、財務諸表の透明性を高め、投資家への情報提供を充実させるという目的です。従来の会計基準では、航空会社や小売業など、多額のオペレーティング・リース契約を抱える企業でも、その実態が貸借対照表に反映されませんでした。これは「オフバランス」と呼ばれ、投資家が企業の隠れた債務リスクを正確に把握しづらいという問題がありました。新基準では、すべてのリースを使用権資産(資産)とリース負債(負債)として計上するため、企業の財政状態がより忠実に財務諸表に表示されるようになります。

いつから適用?新リース会計基準の適用時期と対象企業

企業会計基準委員会(ASBJ)が公表した公開草案によると、新リース会計基準の適用時期と対象企業は以下の通りです。

  • 適用時期: 原則として、2026年4月1日以後に開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。ただし、準備が整った企業は、2026年3月31日以前に終了する事業年度の期末から早期適用することも可能です。
  • 対象企業: 上場企業や会社法上の大会社をはじめ、日本の会計基準を適用するすべての企業が対象となります。ただし、中小企業については、実務上の負担を考慮した例外規定や簡便的な取り扱いが認められる予定です(詳細は後の章で解説します)。

適用開始まで時間はありますが、対象となるリース契約の洗い出しやシステム対応など、準備には相応の期間を要します。自社がいつから対応すべきか、今のうちから計画を立てておくことが重要です。

これまでのリース会計との違いを比較

新リース会計基準によって、特に「借手」の会計処理が大きく変わります。従来の基準との違いを、以下の表で確認してみましょう。

項目これまでの会計基準新リース会計基準
リースの分類「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類。原則としてすべてのリースを単一の会計モデルで処理(分類が不要に)。
貸借対照表(B/S)への計上ファイナンス・リースのみオンバランス(リース資産/リース債務)。
オペレーティング・リースはオフバランス(計上不要)。
原則すべてのリースをオンバランス(使用権資産/リース負債)。
損益計算書(P/L)への計上ファイナンス・リース:減価償却費と支払利息
オペレーティング・リース:支払リース料(費用)
原則として、減価償却費(使用権資産)と支払利息(リース負債)を計上。

最大のポイントは、これまで賃貸借処理として費用計上するだけでよかったパソコンやコピー機の短期リースなども、原則として資産・負債として計上する必要が出てくる点です。これにより、企業の総資産や負債総額が増加し、自己資本比率などの財務指標に影響を与える可能性があります。

必ず押さえたい新リース会計基準の3つの重要ポイント

新リース会計基準の3つの重要ポイント POINT 1 すべてのリースを資産計上 (オンバランス化) 従来 (オペレーティング) オフバランス (B/Sに載らない) 新基準 (原則すべて) 資産の部 負債の部 使用権資産 リース負債 POINT 2 借手の処理を一本化 区分判定の手間がなくなる! ファイナンス オペレーティング 単一の会計処理 (すべてファイナンス同様) POINT 3 貸手は変更なし 従来通りの処理を継続 ファイナンス オペレーティング ファイナンス処理 オペレーティング処理 =

2019年3月に企業会計基準委員会(ASBJ)から公表された新リース会計基準(企業会計基準第16号「リースに関する会計基準」)。国際的な会計基準であるIFRS第16号「リース」の内容をほぼ取り入れたこの新基準は、特にリース契約の「借手」側の経理実務に大きな影響を与えます。ここでは、新基準を理解する上で絶対に外せない3つの重要ポイントを、わかりやすく解説します。

ポイント1 すべてのリースを資産計上するオンバランス化

新リース会計基準における最大の変更点は、原則としてすべてのリース契約を資産および負債として貸借対照表(B/S)に計上する「オンバランス化」が義務付けられたことです。

これまでの会計基準では、リース契約は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類されていました。このうち、コピー機や複合機のリースなどで多く見られたオペレーティング・リースは、資産計上されず、毎月のリース料を費用として処理する「オフバランス取引」が認められていました。しかし、これでは投資家などの利害関係者が、企業がどれだけのリース契約を利用しているのかを財務諸表から正確に把握できないという問題がありました。

新基準では、この問題を解消するため、オペレーティング・リースを含むほぼすべてのリースについて、借手は「使用権資産」を資産として、「リース負債」を負債として貸借対照表に計上する必要があります。これにより、企業の財政状態がより透明性高く表示されるようになります。この変更は、自己資本比率やROA(総資産利益率)といった財務指標にも影響を与えるため、経営層も正しく理解しておく必要があります。

ポイント2 借手の会計処理が一本化される

2つ目のポイントは、借手側の会計処理が大幅に簡素化され、一本化される点です。前述の通り、従来はリース契約を「ファイナンス・リース」か「オペレーティング・リース」かに分類する必要がありました。この判定には専門的な知識が求められ、経理担当者の負担となっていました。

新リース会計基準では、借手においてこの2つの区分が原則として撤廃され、すべてのリース契約がファイナンス・リースと同様の会計処理に統一されます。これにより、契約ごとに複雑な判定を行う必要がなくなります。具体的には、リース開始時に使用権資産とリース負債を計上し、決算時には使用権資産の減価償却費とリース負債に係る支払利息を費用として計上する、という一連の流れになります。

リース区分これまでの会計処理新リース会計基準での会計処理
ファイナンス・リース資産・負債を計上(オンバランス)
減価償却費と支払利息を費用計上
原則すべてのリースで資産・負債を計上(オンバランス)
減価償却費と支払利息を費用計上
オペレーティング・リース資産計上せず、支払リース料を費用計上(オフバランス)

このように、実務上の判定プロセスが簡略化される一方で、これまで費用処理のみで済んでいたオペレーティング・リースについても資産・負債の管理が必要になる点は大きな変更点です。

ポイント3 貸手の会計処理は従来から大きな変更なし

借手側に大きな変更がある一方で、リース物件を提供する「貸手」側の会計処理については、従来からの会計処理が基本的に踏襲され、大きな変更はありません

貸手は、これまで通りリース契約を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれの区分に応じた会計処理を継続します。ファイナンス・リースであればリース債権を計上し、オペレーティング・リースであればリース資産を固定資産として計上し、毎月のリース料を収益として認識します。

このように貸手の会計処理が維持されたのは、国際的な会計基準でも貸手の処理は大きく変わっていないことや、実務上の混乱を避けるための配慮があったためです。したがって、自社が貸手である場合には、新リース会計基準の適用による実務上の影響は限定的と言えるでしょう。

【設例で学ぶ】新リース会計基準の具体的な仕訳例

新リース会計基準:1年目の仕訳と資金フロー ① リース開始時 202X年4月1日 資産計上 (B/S) 使用権資産 4,579,700円 (現在価値で計上) 負債計上 (B/S) リース負債 4,579,700円 ② 決算時 (費用化) 202Y年3月31日 減価償却費 (P/L) 4,579,700 ÷ 5年 915,940円 支払利息 (P/L) 期首残高 × 3% 137,391円 ③ リース料支払 202Y年3月31日 現金支出 1,000,000円 支払額の内訳 利息分: 137,391円 元本返済: 862,609円 (リース負債が減少) 【重要】1年目終了時点のリース負債残高の計算 期首残高 4,579,700 + 発生利息 137,391 支払額 1,000,000 = 期末リース負債残高 3,717,091円 ※翌期はこの残高を元に利息計算を行います

新リース会計基準の理論を理解したところで、ここからは具体的な設例を用いて、実際の仕訳がどのように行われるのかを見ていきましょう。会計処理は、具体的な数字と仕訳の流れで確認することで、より深く理解できます。

今回は、人気サウナ施設を運営する「株式会社サウナパラダイス」が、業務効率化のために最新の業務用複合機をリース契約した場合を想定して解説します。

【設例】

  • リース契約開始日: 202X年4月1日
  • リース期間: 5年
  • 年間リース料: 1,000,000円(毎年3月31日に後払い)
  • リース料総額: 5,000,000円
  • 計算に用いる割引率(借手の追加借入利子率): 3%
  • リース期間終了後の所有権移転条項や割安購入選択権はなし

この条件の場合、まずリース料総額の現在価値を計算して、リース開始時の資産と負債の計上額を算出します。割引率3%、期間5年の年金現価係数(4.5797)を用いると、以下のようになります。

1,000,000円 × 4.5797 = 4,579,700円

この4,579,700円が、リース開始時点で使用権資産およびリース負債として計上すべき金額となります。

リース開始時の仕訳 使用権資産とリース負債の計上

契約開始日(202X年4月1日)には、上記で計算したリース料総額の現在価値を「使用権資産」として資産に、「リース負債」として負債に計上します。これにより、これまでオフバランスだったオペレーティング・リースも貸借対照表(B/S)に計上されることになります。

リース開始時の仕訳
勘定科目 借方 貸方
使用権資産 4,579,700
リース負債 4,579,700

この仕訳により、リース契約が企業の財務状況に与える影響が、貸借対照表上で明確に可視化されます。

決算時の仕訳 減価償却費と支払利息の計上

決算日(202Y年3月31日)には、2つの会計処理が必要です。1つは「使用権資産の減価償却」、もう1つは「リース負債に係る支払利息の計上」です。

使用権資産の減価償却

使用権資産は、有形固定資産と同様に減価償却を行います。通常、リース期間を耐用年数として定額法で償却します。

減価償却費の計算: 4,579,700円 ÷ 5年 = 915,940円

支払利息の計上

リース負債には、割引計算の基礎となった利息が含まれています。決算時には、この利息部分を費用として計上します。

支払利息の計算: 期首リース負債残高 4,579,700円 × 割引率 3% = 137,391円

これら2つの処理を仕訳で示すと以下のようになります。

決算時の仕訳
勘定科目 借方 貸方
減価償却費 915,940
使用権資産減価償却累計額 915,940
支払利息 137,391
リース負債 137,391

旧基準のオペレーティング・リースでは支払リース料として費用計上するだけでしたが、新基準では減価償却費と支払利息という2つの費用に分けて計上する点が大きな違いです。

リース料支払時の仕訳

リース料の支払日(202Y年3月31日)には、実際に1,000,000円を支払います。この支払額は、リース負債の元本返済と支払利息の支払いに充当されます。

リース負債の元本返済額: 支払リース料 1,000,000円 – 計上済の支払利息 137,391円 = 862,609円

決算整理仕訳で計上した支払利息(137,391円)と、上記の元本返済額(862,609円)を合わせてリース負債を減少させます。なお、実務上は決算時の利息計上と支払時の仕訳をまとめて行うこともあります。

リース料支払時の仕訳
勘定科目 借方 貸方
リース負債 1,000,000
現金及び預金 1,000,000

この一連の仕訳を通じて、リース負債の残高は1年目の期末時点で 4,579,700円 + 137,391円 – 1,000,000円 = 3,717,091円 となります。翌期以降も同様の処理をリース期間が満了するまで繰り返します。

新リース会計基準で実務はどう変わる?経理担当者がやるべきこと

新リース会計基準対応:経理担当者の3ステップ STEP 1 対象となるリース契約の洗い出し ● オペレーティング・リース(不動産賃貸借など)も対象 ● IT機器・車両・設備などすべての契約をリストアップ STEP 2 会計システムへの影響確認・準備 ● Excel管理からの脱却(複雑な計算・仕訳に対応) ● 現行システムの対応状況確認とバージョンアップ検討 STEP 3 財務諸表への影響シミュレーション ● B/Sの資産・負債増加による自己資本比率への影響 ● 金融機関や株主などのステークホルダーへ事前説明 ※早期着手により、スムーズな新基準移行が可能になります

新リース会計基準の導入は、これまでの会計処理を大きく変えるものであり、経理実務に与える影響は決して小さくありません。理論を理解するだけでなく、実務レベルで「何を」「いつまでに」「どのように」準備すべきかを把握し、計画的に対応を進めることが重要です。ここでは、経理担当者が直面する具体的な課題と、その対応策を3つのステップに分けて解説します。

対象となるリース契約の洗い出しと管理

新基準への対応で、まず最初に着手すべき最も重要な作業が、社内に存在するすべてのリース契約を網羅的に洗い出すことです。新基準では、これまで費用処理(オフバランス)が可能だったオペレーティング・リースも原則として資産・負債計上(オンバランス)の対象となります。そのため、「リース」という名称の契約だけでなく、実質的にリースに該当する賃貸借契約やサービス契約などをすべてリストアップする必要があります。

具体的には、以下のような契約が対象となり得ます。

  • コピー機、複合機、サーバー、PCなどのIT機器
  • 社用車やトラックなどの車両
  • フォークリフトや製造機械などの設備
  • オフィス、店舗、倉庫などの不動産賃貸借契約

洗い出した契約については、会計処理に必要な情報を整理し、管理台帳を作成することが求められます。最低限、以下の項目は整理しておきましょう。

リース契約管理項目の例
管理項目 確認内容
契約内容 リース対象資産の名称、数量など
契約相手先 リース会社名、貸主名
契約期間 リース開始日と終了日(解約不能期間)
リース料 月額・年額の支払額、支払スケジュール
契約オプション 契約延長の選択権(更新オプション)、割安購入選択権(パーチェスオプション)の有無とその条件
各種コスト 維持管理費用など、リース料に含まれる付随サービスの対価

特に不動産賃貸借契約は、契約期間が長く金額も大きくなる傾向があるため、財務諸表への影響が大きくなります。漏れなく把握することが肝心です。

会計システムへの影響と対応準備

次に、現在使用している会計システムが新リース会計基準に対応できるかを確認する必要があります。新基準では、使用権資産とリース負債の計上、減価償却費と支払利息の計算など、従来の処理とは異なる複雑な計算と仕訳が求められます。

Excelなどによる手作業での管理は、契約件数が増えるほどミスが発生しやすく、業務負担も増大するため、システムでの対応が不可欠です。

以下の点について、会計システムのベンダーに問い合わせ、対応方針を確認しましょう。

  1. 新リース会計基準への対応状況:システムが標準機能で対応しているか、追加モジュールやオプションが必要か。
  2. 具体的な機能:使用権資産とリース負債の現在価値計算、償却スケジュール(減価償却費と支払利息の内訳)の自動作成、関連仕訳の自動生成機能の有無。
  3. バージョンアップの要否:対応するためにシステムのバージョンアップが必要な場合は、その時期とコストを確認する。

もし現在のシステムが対応できない、または対応コストが高額になる場合は、リース資産管理に特化した別のシステムの導入や、会計システム自体のリプレイスも視野に入れた検討が必要です。決算期が迫ってから慌てないよう、早期に情報収集と準備を開始しましょう。

財務諸表への影響シミュレーション

洗い出したリース契約情報をもとに、新基準を適用した場合に自社の財務諸表にどのような影響が出るのか、事前にシミュレーションを行うことが極めて重要です。このシミュレーションにより、経営陣や金融機関、株主といったステークホルダーに対して、適切な説明が可能になります。

特に以下の財務指標は大きく変動する可能性があります。

新リース会計基準による財務諸表・財務指標への主な影響
財務諸表/指標 影響の概要
貸借対照表(B/S) 「使用権資産」と「リース負債」が計上されるため、総資産と負債がともに増加します。結果として自己資本比率が低下する可能性があります。
損益計算書(P/L) 従来の「支払リース料」が「減価償却費」と「支払利息」に変わります。費用計上が前倒しになるため、適用初期は従来よりも利益が減少する傾向があります。一方で、営業利益は支払利息が営業外費用となるため、増加する場合があります。
キャッシュ・フロー計算書(C/F) リース料支払額が、元本返済部分(財務活動CF)と利息部分(営業活動CF等)に区分されます。
財務指標 総資産回転率、ROA(総資産利益率)、負債比率などが変動します。EBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)は、支払リース料が減価償却費と支払利息に変わることで増加します。

シミュレーションの結果、自己資本比率の低下などが金融機関との融資契約における財務制限条項(コベナンツ)に抵触する可能性がある場合は、事前に金融機関へ説明し、協議しておく必要があります。想定される影響を事前に把握し、経営上の意思決定や対外的な説明に備えましょう。

中小企業向け解説 新リース会計基準の例外規定と簡便法

新リース会計基準の原則である「すべてのリースを資産計上する」という考え方は、リース契約の数が多い企業にとって、経理実務の負担を大幅に増加させる可能性があります。特に、経理担当者が限られている中小企業にとっては、大きな課題となり得ます。しかし、ご安心ください。このような実務負担に配慮し、中小企業などが利用できる例外規定や簡便的な取り扱いが設けられています。この章では、中小企業の経理担当者が必ず知っておくべき、新リース会計基準の特例について詳しく解説します。

短期リースと少額リースの特例について

新リース会計基準では、重要性が乏しい特定のリース契約について、会計処理を簡素化できる特例が認められています。それが「短期リース」と「少額リース」です。これらの特例を適用することで、リース資産を使用権資産として計上せず、従来通り支払ったリース料を費用として計上する「賃貸借処理」が可能になります。これにより、資産管理や複雑な計算の手間を大幅に削減できます。

それぞれの特例の概要は以下の通りです。

短期リースと少額リースの比較
項目 短期リース 少額リース
対象となるリース リース開始日時点において、リース期間が12ヶ月以内であるリース契約。購入オプションが付いているなど、実質的に12ヶ月を超えると判断されるものは対象外です。 リース対象となる資産そのものの価値が低いリース契約。明確な金額基準は日本の会計基準では示されていませんが、個々の企業の重要性の判断に基づき適用します。(国際的な基準では5,000米ドルが一つの目安とされています)
会計処理 使用権資産・リース負債を計上せず、支払リース料を費用として計上する「賃貸借処理」が可能です。(オフバランス処理)
具体例 ・展示会のために3ヶ月間だけレンタルする什器
・繁忙期に6ヶ月間だけ借りるPCや複合機
・事務用の椅子やデスク
・タブレット端末やスマートフォン
・コーヒーメーカーなどのオフィス備品
判断単位 契約ごと リース資産ごと

これらの特例を活用することで、多くの日常的なリース契約をオンバランス化の対象から外すことができます。自社で締結しているリース契約の中に、これらの特例を適用できるものがないか、契約内容を再確認することが重要です。特に、1年未満のレンタル契約や、単価の低い備品のリースなどは、特例の対象となる可能性が高いでしょう。

中小企業の会計に関する指針との関連

ここまで例外規定について解説してきましたが、実は多くの中小企業にとって、さらに重要なポイントがあります。それは「中小企業の会計に関する指針」の存在です。

「中小企業の会計に関する指針」とは、株式会社のうち、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債総額200億円以上)に該当せず、金融商品取引法の適用を受けない会計監査人非設置会社を対象とした、実務に即した会計処理のガイドラインです。

そして、この「中小企業の会計に関する指針」を適用している企業は、当面の間、新リース会計基準の強制適用の対象とはなりません。つまり、これまで通りの会計処理(所有権移転ファイナンス・リース取引以外は賃貸借処理)を継続することが認められる見込みです。

これは、中小企業の実務への影響を考慮した措置であり、多くの企業にとっては朗報と言えるでしょう。したがって、自社が「中小企業の会計に関する指針」の適用対象であるかを確認し、会計方針として採用しているかを把握しておくことが極めて重要です。

ただし、金融機関からの要請や、将来的な上場(IPO)を視野に入れている場合、取引先との関係性などから、任意で新リース会計基準を適用する選択肢も考えられます。新基準を適用すれば、財務状況の透明性が増し、国際的な基準との整合性も高まるというメリットもあります。自社の経営戦略や事業環境を踏まえ、どの会計処理を選択すべきか、顧問税理士や公認会計士などの専門家と相談しながら慎重に判断することをおすすめします。

まとめ

本記事では、新リース会計基準の概要から具体的な仕訳例、実務上の対応までを網羅的に解説しました。新リース会計基準の最も重要な変更点は、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリース契約を資産(使用権資産)と負債(リース負債)として貸借対照表に計上する「オンバランス化」が求められる点です。これにより、企業の財政状態がより実態に即して財務諸表に反映されることになります。

この変更は、特にこれまでオペレーティング・リースを多用してきた企業にとって、自己資本比率や負債比率といった財務指標に大きな影響を与える可能性があります。そのため、経理担当者は、適用開始に向けて早期に準備を進めることが不可欠です。まずは自社が対象となる全リース契約を漏れなく洗い出し、新基準を適用した場合の財務諸表への影響額をシミュレーションすることから始めましょう。

一方で、実務上の負担を軽減するため、短期リースや少額リースについては資産計上を不要とする簡便的な処理も認められています。自社のリース契約がこれらの例外規定に該当するかどうかを確認することも重要なポイントです。新リース会計基準への対応は複雑で時間を要します。本記事で解説したポイントと仕訳例を参考に、会計システムの見直しや社内体制の構築など、計画的に準備を進めていきましょう。

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